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WHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センター

WHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センター

2017年度

看護 2018年1月号 第70巻 第1号

第31回国際助産師連盟(ICM)3年毎大会に参加して

第31回国際助産師連盟(ICM)3年毎大会(以下:ICM大会)が2017年6月18〜22日にカナダのトロントで開催された。大会のテーマは、“Midwives: Making a difference in the world<助産師は世界に変化をもたらす>”。近年、内戦や紛争が繰り返されて、多くの犠牲者や難民を生み出し、過激派組織によるテロは世界の安全を脅かしている。このような状況の中、今回のICM大会は「私たち助産師は、今何をせねばならないのか」と問われているようなプログラムとなっていた。本稿では、ICM大会に参加して、印象的であったプログラムを紹介したい。

助産師としての価値観を共有

トロントといえば、多文化・多民族都市。この国際都市に、世界133カ国から130の助産師職能団体が参加し、4000人を超える助産師が集った。まず、ICM大会開会式の前に“Multifaith Celebration of Midwifery”というプログラムが企画されていた。 “Multifaith”とは、さまざまな宗教、哲学、世界観の親和性の共有を意味する。ここでは、伝統的な美しい音楽や歌、ダンスの表現を通して、多様性を尊重する精神が参加者の中で共有された。特に、“Women’s hand drum(女性たちの手で打つ太鼓)”は、時に優しく、時に激しく音を刻み、カナダにおける先住民(アボリジニー)への尊敬と親愛を感じ取ることができた。続いて、イスラム教、ユダヤ教、ヒンズー教、キリスト教、それぞれを代表する女性たちからスピーチがあった。それぞれの宗教は世界観は異なるが、平和や親和を心から望んでいることが理解できた。宗教を超えて、同じ助産師としてわかりあうことができる。リスペクト(尊重)とスピリチュアリティ(精神性)という助産師の根幹をなす価値観を再確認し、参加者で共有する時間であった。

SDGs達成に向けて戦略を議論

2030年に向けた持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)における3つ目の目標「すべての人に健康と福祉を」の中の主要な課題である妊産婦死亡および乳幼児死亡率の減少に助産師は貢献できる。ICM大会でも、それらを達成するために、さまざまな取り組みが紹介されていた。国連人口基金(UNFPA)Natalia Kanem氏の講演では、SDGs達成のために助産師がリーダーシップを発揮することへの期待が述べられた。さらにSDGs達成の戦略として、女性や女性グループとのパートナーシップが必須であることがさまざまな視点からのスピーカーによるパネルディスカッションで議論された。
 また別のセッションでは、「Improving Midwifery Through Global Partnerships:Working Through the WHO Collaborating Centres」と題して、SDGs達成のためのWHOコラボレーティングセンターの役割が紹介された。聖路加国際大学は、WHO コラボレーティングセンターの1つであり、WHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センターが設置されている。
 ICM大会という世界中から助産師が集まる場であるからこそ、世界全体の目標であるSDGsの実現に向けて、さらなる活動の展開そして戦略を議論することができる。お互い顔を合わせてのディスカッションは、たいへん有意義であった。
(文責:片岡弥恵子)

看護 2017年9月号 第69巻 第11号

WHO本部でのインターンシップとWHO総会

WHOをはじめとする国際機関は、学生インターンや専門家ボランティアの受け入れを行っている。聖路加国際大学大学院看護学研究科国際看護学は、2017年2月より、教員1名(筆者)をボランティアとして2カ月間、修士学生1名をインターンとして3カ月間(本稿では両者をまとめて研修生とする)、WHO本部のService Delivery & Safety(SDS)部門に派遣した。

WHO本部での研修内容

SDS部門は、安全で質の高い、市民主導型統合保健サービス(People centered & integrated health service)を促進するため、政策提言やガイドライン開発などを行っている。筆者らは、緩和ケア担当者の下で、小児、開発途上国、人道的危機それぞれにおける緩和ケアガイド作成のためのエビデンス収集を行った。
 給与を支給されない研修生にとって、渡航費、滞在中の宿泊費、食費、交通費などは大きな負担である。そのため、途上国からの研修生は、多くは国などからの支援によって派遣されるにもかかわらず、先進国からの研修生に比べてずっと少なかった。研修期間は通常は3カ月以上とされているが、4〜6カ月間の研修生が多かった。研修生は、所属部門のスーパーバイザーの指導の下、WHOの業務の一端を担いながら、WHOの仕組み、役割、業務を理解していく。筆者らが、スーパーバイザーがつくるケアガイドのエビデンスとなる論文探しを行ったのは、WHOが開発するガイドラインや提言は常に公正中立であるとともに、科学的根拠の裏付けがなければならないからである。世界中から集まった優秀な研修生が、ものすごい速さで文献を読み、情報をまとめていく様子は圧巻である。国際機関で働く上では、英語でこれらができることが大前提であるが、実際にはそのほかにフランス語やスペイン語ができる研修生が多かった。欧米人は言語バリアがないため、大学在学中から研修生となって職員と一緒に仕事をして経験を積み、来るべきチャンスをつかむことができる。この点において日本人は、語学力ではとうてい太刀打ちができない。WHO職員になるには、若いころから研修を始めるほうが有利である。ネイティブのように英語、できれば合わせてフランス語やスペイン語も堪能な人材育成が求められている。

WHO総会

WHOの事業計画や予算は加盟国代表が参加する、毎年5月開催の総会で議決される(写真)。議決権は各国が1票ずつ持っており、今年の総会では、第8代WHO事務局長に、初のアフリカ出身のTedros Adhanom Ghebreyesus博士が選出された。
(文責:長松康子)

看護 2017年7月号 第69巻 第8号

日本での第1回WHO協力センター連携会議

2017年7月2日

国内初のWHO協力センター連携会議
 2017年4月23日、WHO西太平洋地域事務局(WPRO)のシン・ヨンス地域事務局長の来日に合わせ、第1回WHO協力センター連携会議が、国立国際医療研究センター(NCGM)で開催された。日本の全35協力センター中、33センターから55名が出席した(写真)。

参加者の集合写真(NCGM提供)

 開会に際し、国立国際医療研究センターの鎌田光明国際医療協力局長より、今回が国内初の協力センター連携会議であり、日本の35センターという数はオーストラリア、中国に続く第3位であること、また、さまざまな変革があるWHOの中で協力センター間の相互連携について見直しがされていること、それにより、これまでにも「医療安全セミナー」でNCGM、群馬大学、聖路加国際大学(以下:本学)が連携したように、今後さらに協力センター間の連携を強めていくことになった経緯が説明された。
 続いて、厚生労働省国際課の山谷裕幸国際保健・協力室長よりあいさつがあり、2016年のG7伊勢志摩サミットやG7神戸保健大臣会合といった日本が中心となったグローバルヘルスの協調の流れの中で、WHO協力センターの活動は日本のプレゼンスを高める具体的な機会になると語られた。

協力センター間の連携に期待
 会議では、まず各協力センターの代表者から、活動の報告があった。本学からは、亀井智子PCC実践開発研究部長・WHO看護開発協力センター長から本協力センターの活動内容、および最近開発したPeople-Centered Care(PCC)モデルなどを報告した。刊行した「PCCガイド」を配布したところ、各出席者から「見やすい」「わかりやすい」等の肯定的発言が挙がった。
 続いて、厚生労働省の中谷比呂樹国際参与からは、グローバルヘルス人材戦略センターがつくられることが紹介された。国連機関で働く日本人専門職の数は2009年から2013年の間で1%しか増えておらず、韓国の70%、中国の31%と比較して非常に少ない数に留まっている現状を踏まえ、組織的、戦略的な働きかけが必要であり、産官学協働による国際保健人材養成の方針が固まったことが伝えられた。
 葛西健WPRO事業統括部長からは、協力センターはWHOにとって最も重要なパートナーであること、保健医療分野の急速な変化とWHOの変革から、協力センターとの関係性を見直したこと、日本のグローバルヘルスへの貢献に、協力センターが中心的な役割を果たすことができると考えていることが語られた。
 午後からは協力センターの連携・活動内容ごとに6つのグループに分かれ、各グループでどのような連携の可能性があるか、またグループ外の協力センターとの連携の可能性についても話し合った。本学の属する保健システムグループでは、本学の推進しているPCCについて、他のセンターも中心テーマに置くように連携内容が変わってきており、本学の培ってきたPCCの知見を共有できるのではないか、またPCCにも関連する患者安全については、各センター共通のトピックであり、共同研究やセミナー開催の可能性を話し合った。
 WHOからも期待されるように、各協力センター間の連携を通し、日本から新しい形でのWHO、そしてグローバルヘルスへの貢献の形を考えていく時期に差しかかっていることが感じられた会議であった。
(文責:新福洋子)

看護 2017年5月号 第69巻 第5号

聖路加国際大学にて疾病の根絶・制圧をテーマにセミナー開催

WHO 本部に建てられた天然 痘撲滅30 周年を記念した銅像

2017年4月11日

感染症根絶・制圧の歴史

路加国際大学WHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センターは、2017年1月7日に、「疾病の根絶・制圧と日本の貢献」というテーマでPeople-Centered Careセミナーを開催した。このセミナーは、WHO西太平洋地域事務局(WPRO)から3名の日本人専門家、国内の国立感染症研究所やJICAなどから5名の専門家を招いて、天然痘、ポリオ、住血吸虫症、HIV、梅毒、麻疹、風疹などの疾患に関するWHOと日本の取り組みについて学ぶ機会を提供した。
 かつて多くの人々が苦しみ、命を落としていたこれらの疾病をわが国が克服できたのは、単に予防薬や治療薬の開発だけによるものではないこと、国内のみならず世界の疾病根絶・制圧においてわが国が貢献していることなどが専門家らによって語られた。
 例えば、人類が唯一根絶に成功した感染症である天然痘のワクチンは、1796年に英国人医師エドワード・ジェンナーが天然痘に感染したウシの膿をヒトに接種する牛痘種痘法を最初に行ったことで開発された。しかし、天然痘の根絶がWHO総会において宣言されたのは、ずっと後の1980年のことである。1958年のWHO総会において天然痘根絶事業が決議され、1967年にヘンダーソン医師や蟻田医師らがサーベイランスやワクチン接種などの強化対策を行った結果、1977年のソマリアの例を最後に天然痘の発生を見なくなったのである。WHO本部には天然痘撲滅30周年を記念して銅像が建てられている(写真)。
 日本住血吸虫症は、山梨県を中心とする地域の住民に多大な健康被害を及ぼし、同地域では「地方病」と呼ばれて恐れられていた。腹水を呈してついには死に至るこの疾病は長らく原因不明だったが、医師らの永年にわたる研究により、寄生虫による疾病であること、経口ではなく水を介して皮膚から感染すること、ミヤイリガイという中間宿主が存在することなどが解明された。しかし、原因と感染経路が解明されても、農民が水辺に無数に生息するミヤイリガイからの感染を予防することは困難であった。住血吸虫をなくしたいという住民の熱意と、政府の支援、研究者らの取り組みが実り、日本が住血吸虫症を撲滅した世界唯一の国となったのは1996年のことである。

産学官民の連携で公衆衛生活動を

 講演者の1人であるWPROの矢島綾氏は、感染症対策においては、効果のある介入に関する科学的根拠の蓄積から成功例をつくり、それを行政が国のコミットメントへつなげること、また、政策の戦略と、住民を中心とした官民連携による政策実施が重要だと熱く語った。産学官民の連携と協力が今後も必要とされており、今後の日本からの支援を期待していきたい。
 聖路加国際大学WHOプライマリーヘルスケア看護開発協力センターはPeople-Centered Care(PCC)を推進している。PCCは、科学的根拠を集積し、市民を中心として、看護師がパートナーシップを取りながら、健康を実現する働きかけである。市民の声に耳を傾け、市民に受け入れられる公衆衛生活動を行い、医療従事者がやってあげるのではなく、市民が自ら行うのを支えることで、対等なパートナーシップを築くことが、健康問題解決において重要だと考えている。(文責:長松康子)